『失われた20年・後編』
〜前回のあらすじ〜
榎並には、結婚の約束を交わした幼馴染がいた。
その存在すら忘れていた榎並だが、ふと、それが加藤なのではと感じ始める。
探っていくうちに確信を深めていった榎並は、
「人差し指を立てて口元に持っていき、互いの名前を呼び合い、ウィンクをする」という、
『誓いのサイン』を加藤に求める・・・
榎並 「・・・あーちゃん。」
胸の鼓動がどんどん速くなるのを感じる榎並。
榎並 「誓いのサイン、やってくれ!」
ついに失われた20年を取り戻す時が来た。
加藤がそっと口元に手を持っていき、口を開いた―。
加藤 「・・・大ちゃん・・・大丈夫?」

なに一人で盛り上がっちゃってんの、といった表情で榎並を見る加藤。
榎並 「WHAT!?」
あまりの混乱に、英語を習いたての中学生のような反応をする榎並。
すぐに勘違いだったことに気づき、興奮した自分が馬鹿らしくなる。
榎並 「・・・ははっ・・・あはははっ!そんなわけ無いよな!」
加藤 「なに?サインって。あとなんで富士公園知ってるの?懐かしくてビックリしたんだけど。」
榎並 「・・・(サインの意味なんて言えるわけないだろ・・・。しかし偶然って恐ろしいな。。)」
照れもあり、榎並はその場を引き上げることに。
榎並 「何でもないよ、引き止めてゴメン。それよりもうO.Aだろ?ほら、遅刻するぞ!」
加藤 「うわっ!言い逃げとかサイテー。。。」
頬を膨らませアナウンス室を出て行く加藤。
榎並 「やれやれ・・・。」
ホッとしたような、ガッカリしたような感覚に襲われる榎並。
と、ドアからこちらをのぞき込んでいる加藤に気づく。
榎並 「なんだよー、まだ気になってんの?ごめんってば。」
加藤 「・・・意地悪してごめんね。」
榎並 「へ?」
加藤 「ずっと前から気づいてたよ。だーいだいっ!」

凍りついた20年の月日が、ゆっくり、解け始めた―。
おしまい
※この話はもちろん妄想だが、榎並の話を聞く時に加藤が
「なに一人で盛り上がっちゃってんの」という表情をすることはしょっちゅうである。