「はいれば」

怪獣が折り紙で作った入れ物。「歯を入れるんだ」と言っていた。

だから“は(歯)いれば(入れ場)”。



少し前からグラグラしていた怪獣の歯が抜けた。

これで2本目。

下の前歯だから、あごを突き出しながら、得意げな顔を何度も見せている。

ちょっと前に1本目が抜けた時は、親子でキャーキャー大騒ぎし、
「丈夫な歯が生えてくるように、おまじないをしなくちゃ!」と抜けた歯を屋根に向かって投げた。

『上の歯は縁の下に、下の歯は屋根に向かって投げる』なんて、時代に見合ってないかもしれないけれど。

投げ終えた怪獣は、少し興奮気味に
「大丈夫?飛んでいった?丈夫な歯は生える?」
と何度も繰り返し確かめていた。



さて、2本目はというと。

保育園で抜けた歯を、先生が丁寧にティッシュに包んで連絡帳に貼ってくれていた。

怪獣は私にそれを誇らしげに見せてから
「ちょっと洗ってくる!」と洗面所に入って行った。

きっと、洗ってから、
「パパに見せるまで“はいれば”にしまっておく!」って言うんだろうな。


ジャーッッ。


勢いの良い水の音がする。


しばしの静寂。



・・・嫌な予感。




「あーっ!あーーー!!」

怪獣が言葉にならない叫び声をあげ、ジタバタしながら飛び出してきた。


予感、的中。
(´〜`;)


「ママどうしよう(泣)歯が生えなくなるよー(泣)歯が、歯がーーーぁ(涙)」


(´〜`;)


抜けた怪獣の小さな歯は、

排水溝のすき間をすり抜け、消えていったらしい。


「つっ、つっ、つかめなくてっ、まにあわなくてっ(涙)」


上手く喋れないほど、泣き、うろたえる怪獣。
「大丈夫、大丈夫」と慰めてみても、涙は益々溢れてくる。


こんな時。


ピクピク。←私の鼻
ピクピク。

なんで笑えてしまうんだろう。
純粋な子供のリアクションに対して、嫌な大人だな、私。


「だぁ〜いじょ〜ぶよ〜」
(笑うなっ。真面目に説明してあげなくちゃダメっ)

笑いを堪えて必死に語尾を下げ、根拠なく放った私の発言に説得力があるわけがなく。

次の日、パパに
「おまじないが出来なかったこと、パパもあったな〜。でもほらっ!」と、
ニンマリ開けた口に並ぶ歯を見せられるまで、

怪獣の顔にかかった雲は晴れなかった。




“はいれば”は、次の歯が抜けるまで、私が預かっている。